update2001.5.12
ミックスジュース
小さい頃、ほとんどの買い物を服部や曽根、庄内で済ませる母は時々梅田まで出かけ、
その買い物の合間にデパートの上の階にあるカフェレストランでお茶を飲んだ。
弟達はプリンアラモードやアイスクリームなど行くたびに違うものを注文し、
アイスクリームに添えてあるウエハースを楽しそうに食べた。私はと言うと必ず同じ物を注文した。
「ホットケーキとミックスジュース」。
単品でミックスジュースだけの時もあったけど、このジュースの味が大好きだった。
あの頃、どのお店で飲んでも同じ味がした。
バナナとオレンジとそのほかのフルーツ・・・ジュースの色も橙色と黄色の合わさった
とろみのある優しい色で、目の前に運ばれてそのグラスにストローを挿し、
飲み始める迄がとても嬉しくてわくわくした。
ゴクゴク飲んでしまったらあっという間に氷とさくらんぼだけになって、ちょっと後悔したことも。
引っ越す前の日に阪神百貨店のレストランで食べたミックスジュースとホットケーキは忘れられないおいしさ。
大きなホットケーキ、とても厚くて香ばしい焼き上がり。
バニラエッセンスの甘い香りとメープルシロップとバターが溶け合って見ているだけでもうっとりしてしまった。
あの日以来、同じ味に出会ったことがなかった。
レストランでも喫茶店でも、入るとメニューをみてミックスジュースがあるときは必ず注文した。
けれど出てくるものはオレンジそのものの味だったり、バナナだけは入っているかなといった程度で
ひと口飲むたびにがっかりした。私は幼い頃の記憶を美化しているのかな、と思うくらい、
大人になってもあの味には出会えなかった。
それを吉祥寺の喫茶店で見つけたのだ。ようやく、ようやく出会うことが出来ました。
たまたま弟と入った喫茶店。おじいさんがマスター。いつものようにメニューにその名前を見つけて、
もう期待はしなくなっていたけど条件反射のように注文した。
そうして一口飲んだときの「これだ」という驚きとよろこび,そのおいしさ・・・
言葉も頭の中も混乱してしまった。大感激だった。
そのあとも度々おじいさんの作るミックスジュースを飲みに出かけた。二人で入ったり
一人で入ったりしながらいつも「ミックスジュースを」と注文した。
一人ではいるときはカウンターに座り、マスターの作るのをちらちら見た（一度聞いたけど教えてもらえなかったから）。
このミックスジュースの味を探していたんだと言うと、
「このジュースの作り方は手間がかかるから、この頃は作るところもあまりないでしょうね」と言われた。
家でも何度も作ってみるのだが、どうやっても同じ味にならない。
それにあの喫茶店でも、マスターの作るミックスジュース以外は微妙に味が違う。
もう一人の男の人が作ってもマスターの奥さんが作っても一口飲むと、？と思う。
フルーツの分量が違うのだと思う。
今でも時々ひとりでふらっと出かけて行って注文する。
窓際の席が空いているときはソファに腰掛けて目の前に出来た花屋を眺めながら、人通りを眺めながら、
マスターと常連さんとの会話を聴きながらのんびり座っている。
このミックスジュースは心を落ち着かせてくれる優しい味がする。